cogno-SIC

cognoscenti(こぐのん) notes (mainly classical music)

管弦楽⇔吹奏楽の功罪

大阪フィルハーモニー交響楽団スペシャルライブ》下野竜也×外囿祥一郎
2008年10月23日(木) ザ・シンフォニーホール


ショスタコーヴィチ/祝典序曲 作品96
アーノルド/ピータールー序曲
M.エレビー/ユーフォニアム協奏曲
A.リード(中原達彦編曲)/アルメニアン・ダンス・パート1(管弦楽版)
J.S.バッハ(M.レーガー編曲)/コラール前奏曲「おお人よ、汝の罪の大いなるを嘆け」BWV.622
レスピーギ交響詩「ローマの祭り」

(アンコール)V.ウィリアムズ/イギリス民謡組曲 第1曲 行進曲「日曜日には十七歳」※


指 揮:下野 竜也 丸谷 明夫※
独 奏:外囿 祥一郎
司 会:丸谷 明夫(淀川工科高等学校吹奏楽部)

下野さんはこのオケの歴史を一部背負っている指揮者、ということも知らないような制服姿と若者の多い客層*1、丸谷先生いわく「完売」だそうで、来年もこの企画あるか。ただ、続けるには演奏曲目の再考は免れないよなぁ、という管弦楽-吹奏楽の相互乗入が一長一短であることを思わずにはいられなかった。
パイプオルガン前にバンダをそろえた祝典序曲から(この曲バンダ要るっけ?)。曲自体の管-弦の使い方を考えながら聴いてるに、この曲は管弦楽で演奏されてこそ、というよりは作曲家特有の木管使い尽くしにどうしても耳がいってしまう。「この曲は元曲を聴いてから」という教えがあんまり活きないような気がした。演奏自体は拍手の沸き具合からも好調。

ピータールー序曲。序奏の弦合奏からして、これこそは管弦楽で演奏されてこそ、と壮麗さにうっとり。軍の突入部分で無駄な金管の咆哮もなく、誠実に若干テンション高めで進めていく。再び賛歌に戻り、主旋律はヴィオラか第2ヴァイオリンが持っていったりと発見も。ピータールーは管弦楽だよ、とアナウンス効果ありまくり。

一方エレビーのEuph協奏曲は、このような機会じゃないとお目にかかれない逆相乗り(おまけにブラスバンド管弦楽)だったが、終始弦楽器の役目なし。低弦はチューバに被らされるわ、旋律がちょっと高弦に回ってきても鍵盤楽器が乗っかって台無しとか、3楽章の緩徐的な伴奏に弦合奏の優しい和音が聴けただけ。曲自体もほとんど金・打楽器の狂奏で(ブラスバンドなので当然だが)、ユーフォは早回と歌い上げしかないので、ソロに集中できなかった。局所としては2楽章の大きいミュートを外してコンマスに渡すところで隣の客が受けてた。外囿さんも下野さんも鹿児島の同郷で、お互いに吹奏楽で知っていたらしい(下野さんはペットが上手かったそうな)。吹奏楽視点の協奏曲というなら、単に管楽器の協奏曲でもよかったやも(クレストンの「ファンタジー」Tbとか)、と思ったがこのコンビで録音をしていたらしい。

チャールダーシュ

チャールダーシュ

企画名に名前が出たなら、アンコールがあってもよかったかな(でも後半舞台に乗ってたみたい)


休憩後、アルメニアン・ダンスpart1。
これは録音したら売れる
エレビーとうって変わって、主だった主旋律を弦楽器に配分し(管楽器を一部カットしたり)、そのことで民謡を奏でるソロ弦楽器がジプシーヴァイオリンのごとくより民謡の郷愁に駆られて、思わずウルッと来た。8分の5拍子の『おーい、僕のナザン』でのアルトサックスソロはチェロが、『アラギャズ山』の各ソロはヴィオラコンマスといった具合に、原曲自体が管弦楽だったのでは?と思ってしまうほどはまっていた。オケ自体はこの曲は全く初めてということらしかったが、なかなかにノリノリ。編曲者はこういう仕事増やしていけばいいのではないか、上手いし。下野さんいわく「クラシック愛好者にはなじみのなかった作曲家だけど、吹奏楽-オーケストラの垣根(的な何か)以前の純粋ないい音楽を作った、という点で素晴らしい作曲家だったのでは」とオケ聴衆に向けて。吹奏楽オリジナルの名曲再興は管弦楽への逆編曲が思わぬ契機になるやも。

バッハのコラールは、…順当。吹奏楽愛好者に弦の曲を、というならもっと有名な曲でもよかったのでは。(レーガー編曲、というのに引っ掛けてオルガン→弦であるが、オルガンに馴染みがなかったり)

最後、ローマの祭り。金管バッチシ(Hrは順当、というかアルメニで某関西の演奏が思わず霞んだので、若干控えめに感じた。十月祭ソロは堅実)、緩徐部分はぐっと遅くして少々の情趣を醸し出し、主顕祭の大団円はハイテンションを維持しつつ決して暴れず、2ヵ所のプレスト前でしっかりテンポを落としていて、さすが下野さん。(吹奏楽での名演と言われている演奏も、プレストの指示ないがしろになってるよなー)
ブラボー拍手の中各楽器の奏者を順に立たせて、下野さんマイク取るや「今から司会をさせていただきます、下野です。祝典序曲からもう一回! ってのは嘘ですが、丸谷先生に指揮をしていただきます!」とステップで舞台を後にし、丸谷先生ぽつーん。「ちっとも練習とかしてないんですよ」といいつつ、アンコール。管弦楽版のイギリス民謡は初めてだったが、フルートの刻みをヴァイオリンも刻んでいて大変そうやった。


と一長一短あったプログラムだったけど、翻って原則論として、管弦楽曲吹奏楽編曲は跋扈しているも、あくまで編成の半分を占めるのは弦楽器であり、それを削った上で少ない木管楽器に置換させるというのはかなり無理をしていて、曲の本来の魅力を喪失せざるをえない、という事実をアナウンスできたのでは、と期待するところ。
逆に関してはあまり事例がなく、今回に関してはブラスバンド管弦楽は増やす楽器に無理があるので危険だけど、吹奏楽管弦楽は弦楽器さえ上手く使えば魅力が増える、と。これ上手いこと開発?していけば、大人数の吹奏楽民がクラシックに移行できるだろう。

【追記】

九響スペシャ*2は「春の猟犬」「ぐるりよざ」、そしてK.フーサ:「プラハ1968年」のための音楽をやったのかぁ。来年はフーサやってください、下野さん。

http://twitter.com/cognoscenti/status/972901637


次回:吹奏楽コンクール全国大会一般の部(予定)

*1:「オケを聴きに来た人」「吹奏楽っぽいので聴きに来た人」で拍手アンケートをとったら、2:8くらい

*2:http://orchestra.musicinfo.co.jp/~kyukyo/kyukyoFiles/Concert/2008tokubetu/08wind_orchestra.html