cogno-SIC

cognoscenti(こぐのん) notes (mainly classical music)

大阪市音楽団 第98回定期演奏会

●第98回定期演奏会
(市制120周年記念事業 大阪文化祭参加 2009年大阪芸術祭参加)

今回の定期では、前半に昨年12月、シカゴ・ミッドウエストクリニックで発表・出版された新作を一挙に披露いたします。後半では、作曲・解説・バンドディレクターと幅広い活躍を続ける後藤洋作曲の「彼方の祝祭」(市制120周年記念委嘱作品・世界初演)や大阪市音楽団創立80周年記念誌「80」付録CDに収録されているあの「華麗なる舞曲」が登場です。1992年飯森範親とのコンビによる伝説の演奏が再び!


【指揮】飯森 範親

吹奏楽大阪市音楽団

【場所】ザ・シンフォニーホール


●プログラム
曲目 作曲 / 編曲
1. ワイルド・ブルー・ヨンダー 作品125 ジェイムズ・バーンズ
2. ダッチ・マスターズ組曲 ヨハン・デメイ
 I. 「夜警」(レンブラント・ファン・レイン)
 II. 「恋文」(ヨハネス・フェルメール
 III. 「王子の日」(ヤン・ステーン)
3. ウィークエンド・イン・ニューヨーク フィリップ・スパーク
4. 彼方の祝祭[市制120周年記念 大阪市音楽団委嘱作品・世界初演] 後藤 洋
5. 華麗なる舞曲 クロード・T. スミス


Osaka Shion Wind Orchestra Website | 大阪市音楽団

市音の定期は初体験。やはり学生の客が目立つが、2割ほどの空席が見える。センチュリー交響楽団への補助金削減問題でひと賑わいした割には、この純公的なプロ吹奏楽団への市民の関心は芳しくないのではないか・・・

とちょっと心配するも、公演内容はかなり充実したものだった。いや、感心した。プロの吹奏楽は大衆の吹奏楽とは別次元やね。


バーンズの「ワイルド・ブルー・ヨンダー」は無理矢理音符埋めてやったでーっていう終始がやがやな曲で、副題が「エア・フォース・バンドのための超音速スケルツォ」もむべなるかな、吹奏楽らしいにぎやかさで幕開け。格好いいが、親しみやすさとか美しさとは無縁。

飯森さんのトークを交えながら演奏会は進む。ある意味現代音楽の演奏会なので少しの説明も有り難いし、初演を多くこなす飯森さんならでは。

ヨハン・デメイの「ダッチ・マスターズ組曲」は諸手を挙げて名曲、と言っていいだろう。久しぶりに吹奏楽の良い曲を聴けた、という感を得た。
デメイの母国であるオランダの画家3人の3作品にインスピレーションを得た3楽章の管楽曲は、演奏者が舞台上でできるあらゆる表現(音楽表現以外も大胆に)が駆使され、構成のきちりとした旋律美を聴かせる。*1

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/a/ae/Rembrandt_nightwatch_large.jpg/714px-Rembrandt_nightwatch_large.jpg
 第1曲「夜警」(レンブラント)は警官の持つ拳銃の発砲で始まり組曲の主テーマを厳かに歌う。

http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/43/Jan_Vermeer_van_Delft_010.jpg/508px-Jan_Vermeer_van_Delft_010.jpg
第2曲「恋文」(フェルメール)は女主人が持つリュート(今回はシンセサイザー)のアルペジオで始まり、ジョン・ダウランド(1563〜1626)の「悲しみよ、来たれ(Sorrow, Come)」が合唱される*2。女性らしいしとやかな舞曲を途中で挟む。

http://www.fransmensonides.nl/4restprinten/prinsjesdag.jpg
第3曲「王子の日」(ステーン)は市音の奏者全員がおもむろに立ちはじめ、セクションが勝手に分かれてリコーダー合奏したり歌ったり踊ったりわめいたりの酒場の様相を演出し出す。喧噪が中断され、第1曲のテーマが雄大に回帰する。
・・・と文字だけでは伝えきれないし、この曲は音源だけ聴いてもその魅力が十分に伝わらないだろう。そういう意味でこの曲は演奏会向けの、聴衆を視覚的に楽しませる総合芸術としての音楽作品で、現代音楽の要素を取り込んでおり*3、デメイも本格的な作曲の(芸術の)プロなのだなと再認識した次第。


休憩後、スパークの「ウィークエンド・イン・ニューヨーク」。ガーシュイン「パリのアメリカ人」のスパーク版→「ニューヨークのイギリス人」といった趣で、ジャズのビックバンドやサクソフォンカルテットが象徴的に用いられる。女性アルトの好演が目立った。ただジャジーな雰囲気に浸っていたらあっという間に終わってしまい、曲の統一感としては難を感じた。分裂的なのか。

後藤洋氏に委嘱された新曲「彼方の祝祭」。演奏前に後藤さんが舞台に呼ばれ、飯森さんが後藤氏の「即興曲」(昭和51年のコンクール課題曲)をクラリネットで吹いたと明かしたり、後藤氏が市政120周年にちなんだ曲ではあるが祝祭的な雰囲気は後退させていて、「作曲家は聴衆により深い思索、豊かな世界へ導く仕事」とポリシーを打ち明け、全体的に繊細な曲であることなどを語った。概ねその通り、複数のハンドシンバルのこだまからオーボエのソロが立ち上がり、時折ガブリエリの「八声のカンツォン第2番」とドビュッシー夜想曲」から「祭り」のファンファーレが聞こえてくる、という静かであるが要所の盛り上がりもある。吹奏楽編成において繊細的な表現となるとコラールなどあるが、後藤氏は音をずらすことで雰囲気を醸し出す、武満徹を輩出した日本人らしい構成をしており、吹奏楽としては新しいように思う。学生バンドには少し無縁だが、知っておいて欲しい音の感覚であった。

プログラムの締め、スミスの超難曲「華麗なる舞曲」は、どうも17年前の奇跡よふたたび!といったお家的な期待のようであったらしいが(当該の演奏は聴いたことがないので・・・、っと思ったらニコニコにあがってますね↓)、初っぱなからかなり早めのテンポで飛ばす!飛ばす! 市音そつなくこなす! そして興奮置いてけぼり!(あれ? であっという間に吹き切った、といった感触だった。無論ブラボーは出るし、各ソロも巧いし、感心したのはホルンのハイトーンおまけに早回しが終始あることだけど、興奮がテンポに追いつかなかったです、はい。

アンコールはなぜか飯森さんが出演した「おくりびと」のテーマを、コンサートマスターのソプラノサックスと飯森さんのピアノで。さらにヤン・ヴァベル・ローストのコンサートマーチ「ウェディング・マーチ」。これはバテたのかテンション低め。演奏会は若干のクールダウンを経て終演。


さて若干の希望的要望を申し上げれておけば、市音は学生の見本「でない」表現を打って出る指揮者(今回の飯森氏は、なにやらシェーンベルクが振れない疑惑なんてありましたが、実によくスコアを読み込んで要所要所を音楽的に盛り上げようと頑張っているように見受けましたよ)とタッグを組んで、実直に良い音楽やっていけば、自身の参考にする学生はもとより、なによりホームグラウンドである市・市民の支持を得れるのではないか、そのための広報をもっと精力的にやっていただきたいな、といったところでしょうか。良い音楽できる集団ですよ、市音。次回はともかく、第100回は何するのかな。(7月に東京佼成WOが大阪来るそうだし、聴き比べも一考かも)

ちなみに後日恒例のライブCD化と、NHK-FMで放送予定だそうです。

[rakuten:bandpower:10003712:detail]
[rakuten:bandpower:10004092:detail]
http://item.rakuten.co.jp/bandpower/cd-1907/




・・・・・・今週のお題的には、ほんとうはクラシック(管弦楽)が好きな中の人ですが、出自はやはり吹奏楽なのです、ああかなしいかな。

*1:構成美はヨーロッパの管弦楽の伝統が影響しているのだろうか、あと前曲に比べて

*2:吹奏楽で合唱する曲って多いですよね

*3:それこそ飯森さんがぶっ倒れて終わるような現代曲ありましたよね?