cogno-SIC

cognoscenti(こぐのん) notes (mainly classical music)

「深呼吸」と「稲妻」

ライナーノーツにはラフマニノフの若かりし頃の肖像、宇野功芳(出やがった!こやつ)による感想と曲目解説(1番より2番の方が解説多い)と、ツィマーマンへのインタビューが載ってる。

ツィマーマンのラフマニノフの根底にあるのは「深呼吸」だと思う。もうそれは大草原で大きくゆっくり息を吸うかのように。テンポの話だけではない。全てにおいて非常に大きな息遣いなのである。非常に包容力のある音でツィマーマンは私たちの耳をいざなう。
ただ第二の根底として忘れてはならないのは「稲妻」だ。2番の2楽章までそれはふくよかな音楽を聴かせてくれたかと思えば、3楽章になって急に疾走し驚かせる。高速なパッセージは雷鳴をとどろかせて落雷するかのように突き抜けていく。またどんなに早く複雑なパッセージでも、またどんなに弱い音でも1音1音が確実に聞こえる。1音に主張がある。音が光らず曇ることがない。「稲妻」のような明晰で厳しい姿勢がツィマーマンの言うように「抑制」にも繋がっているのだろう。
さらに2つの性格が完璧に独立しているわけではない。「深呼吸」するように起伏を帯びて「稲妻」が走れば、「稲妻」のような厳しさで途端にたっぷりと「深呼吸」をする。
小澤氏とボストン交響楽団もツィマーマンの演奏にさらに拍車をかけるかのよう。
聞く人によれば「稲妻」な硬派の演奏という印象が強くロマンティシズム溢れる演奏とは対極に位置させるのかもしれないが、ツィマーマンはインタビューで「ラフマニノフの協奏曲は演奏するものではなく、“生きるもの”です。」と語っているように、少なくとも私は、人間が「深呼吸」し生きているさまを感じさせられるのである。