cogno-SIC

cognoscenti(こぐのん) notes (mainly classical music)

音楽のアイデンティティ

作曲家の伊福部昭氏が亡くなられた。大往生だった。
私の音楽観として、「作曲家も一人の人間であり、作られる音楽も個性があってしかるべき」という、今ではもはや当たり前なことに気づかせてくれたのは氏の音楽だったように思う。詳細に思い出してみると、伊福部昭 米寿記念演奏会 完全ライヴ! のライナーノーツに石井眞木氏が弟子として教わったことに「音楽の個性」に関する記述があり、それまで「ただそこにある」と思ってた音楽が、個々の違う人間が創作されることでかけがえのないものになる、いわば音楽のアイデンティティを知ったのだった。
子供の頃大好きだったゴジラシリーズが氏の音楽に触れた最初のきっかけで、そして吹奏楽の世界で大津シンフォニックバンドによる「シンフォニア・タプカーラ」第3楽章の名演に触れ、他お世辞にも多くの作品を聴いたわけではないが、どれをとっても独特の旋律・リズムで構成されている。それはうがった見方をすれば似たような作品の羅列になってしまうところを、その独特の形式が他の誰とも違う氏の音楽性を強く主張させ、多くの聴き手を魅了してきたのだろう。いとも簡単に感動を誘うような音楽のモードが模倣される今日にあって、一貫した音楽性を誇示してきた氏の創作活動は今後語り継ぐべきものである。

吹奏楽というジャンルにおいて氏が残したのは「古典風軍樂 吉志舞(きしまい)」一作品だけだが、これは資料的価値のある「黒船以来~吹奏楽150年の歩み~」にも収録されており、日本の吹奏楽史において確かな足跡を残した。ネットの片隅でこの作品の存在を示すことで哀悼の意としたい。

黒船以来~吹奏楽150年の歩み~

黒船以来~吹奏楽150年の歩み~